【長寿十訓(健康十訓)】江戸時代から続く「健康志向」の本流

従前から、特に高齢者の健康の指針として

「長寿十訓(健康十訓とも)」

というのがあります。

私の祖母は自分の部屋の壁にこの長寿十訓を額縁に入れて掲げていました。あなたも、長寿十訓、あるいは健康十訓と書いてある湯呑や手ぬぐいを見たことがあるかもしれません。

「長寿十訓」とは

「少肉多菜 少塩多酢 少糖多果 少食多噛 少煩多眠 少怒多笑 少言多行 少欲多施 少衣多浴 少車多歩」

これが長寿十訓の内容です。

すごく簡潔で、明快ですよね?

① 少肉多菜

長寿十訓では「魚」についての言及がありませんが、ここで言う「肉」に含まれていると解釈すべきかもしれません。しかし、現代日本人の食環境を前提に考えれば、どちらにしろ主菜となる肉(魚)類の比率を下げ、野菜類を増やすことでバランスを保つ意識が必要であることは大筋で間違いないことでしょう。

② 少塩多酢

塩分を控えること。特に調理について食塩(塩化ナトリウム)を減らすように心がけ、酢を多めに用いるべきなのは現代にもそのまま当てはまります。

③ 少糖多果

これも、精製された砂糖を減らし、一方で果実を多めに食卓に上げるよう心がけるのは原則健康に良いでしょう。

④ 少食多噛

食べ過ぎ、飲みすぎは万病のもととなり、腹八分目、腹七分目を習慣にすれば健康に良いでしょう。よく噛むことが消化を助け満腹感を増幅し、あごや神経の発達にも良い効果があることは常に指摘されるところです。

⑤ 少煩多眠

思い悩んだりストレスをため込む習慣を止め、十分な睡眠をとることです。

⑥ 少怒多笑

感情のコントロールが身体の機能にも影響します。怒りや強い悲しみの感情は自律神経系の緊張を引き起こし、血圧を上げたり心臓の負担を増加したりします。

逆に喜びなどポジティブな感情は、それらのネガティブな感情によって引き起こされた身体的変化をすみやかに抑制する効果があるだけでなく、免疫力を高める、がんの再発を抑制するといった具体的な症例も報告されています。

⑦ 少言多行

これは道徳的な教訓のようにも思えますが……しかし、実際を想像してみると、たとえばいつも他人を当てにしたり、不平不満ばかり言っている人よりも、自分でできることは自分で処理したり、常に行動的であったり身の回りのことを自らこなしたりできる人のほうが、IADLレベルが高くなりそうだし、認知症などにもなりにくいような(?)気はします。

⑧ 少欲多施

これも倫理、規範的な話とも取れますが……やはり、精神衛生上良いことですし、周囲の人間関係にも良い影響を与えるでしょう。深読みするならば、こういった面でのあり方が結局は自らのQOLレベルを維持、向上することにもつながるわけですし、実は決して健康や長寿とも無関係ではないということなのかもしれません。

⑨ 少衣多浴

これは特に高齢になったら必要不可欠な、きわめて実用的な心掛けと考えられます。清潔で動作しやすく、免疫力を高めるでしょう。

⑩ 少車多歩

江戸時代に「車」があったかどうかはさておき、やはり適度な運動や、特に「歩く」という行為は足腰の筋力維持だけでなく脳や神経系にも刺激を与え、全身機能を維持するのに非常に役立ちます。

現代の健康情報は「長寿十訓」と何も変わっていない

長寿十訓(健康十訓)の作者は横井也有(よこいやゆう)という武士だと言われています。

横井也有は江戸時代に尾張藩の要職を務めた武士です。武芸にも秀で、同時に儒学や文芸にも優れた多芸多才の人と言われています。そして82歳まで長生きした長寿の人でもあります。

あらためて驚くことは、健康に良いとされる食生活や生活習慣というものは、結局のところ大まかに言えば江戸時代から何も変わっていないということです。

もちろん、現代のような栄養や食品成分の詳細な研究成果などなかった時代です。しかし、全体としてはまったく妥当な十訓であり、見たところ多いな間違いも含まれていないし、方向性や視点も、現代から見ても非常に適確であるように思えます。

私だけではなく、ほとんどだれもが子供の頃から

「肉ばっかりじゃなくて、野菜もバランスよく食べなさい」

と言われ続けてきたはずです。

その、ある意味当たり前の、ありきたりの忠告を今まで無視してきた……結局は、まずそのことから認めないと始まりません。それを放置したまま巷の健康情報や特定の健康食品やサプリメントに頼ろうとしても本末転倒というものではないでしょうか?

健康で長生きする「コツ」というのは、実践できるかどうかは別としても、一見するとだれでも理解できる単純なことのように思えます。

少肉多菜……なんて、だれでも頭では分かってる。大の大人が、本気でやろうとすればできないはずなんかない。

生活習慣の土台を作る

細かいことは後でもいい。まず健康な生活習慣の土台、ベースを作ることが先決。その上にこそ、現代のより進歩した知識や情報が役に立つ余地が生まれる……なにごとも基本が肝心。

健康にも基本があるとすれば、それはまさしくこの長寿十訓、健康十訓だと言えないでしょうか?