数の子が苦い理由

数の子はニシンの卵です。昭和30年頃からニシンの漁獲高が減少し始めたことによって、数の子は高級食材というイメージが一般に広まったようです。

今でも北海道産の数の子はけっこう値が張りますが、今は輸入物も多く流通しています。外国の人は数の子なんて食べないので、日本が輸入し始める以前は全部捨てていたらしいです。

ところで、高級感もあり、縁起が良いともされる数の子ですが……実は私はあまり好きではありません。同じ魚卵の中でもイクラやタラコは大好きなのですが、数の子はちょっとね。

なぜかと言うと、昔、子供の頃に初めて食べた数の子の「独特の苦み」が忘れられないからです。

小学生、たぶん3年生くらいの時だったと思いますが、お正月休みに親戚の家に行ったとき、私は初めて「数の子」というものを見ました。実家にいたときには、それまで数の子なんて知らなかったんですよ。ふだん食卓に上ることもないし、お節料理などに入っていたかもしれませんが、たぶん私は完全にスルーしていたと思われます。とにかく、私にとってそれは初めての数の子との遭遇だったのです。

で、親戚の方々といっしょに食事をしていた時に、小さな器に盛られた数の子が目に止まって、知らなかった私は

「これは、パイナップルを切ったものだ」

と判断して手を出したんですよ。そうしたら……パイナップルの甘さを想定して口に入れたとたんに、数の子の苦みが来たものだから驚いてしまって、思わず口から出しちゃったんですよ。

……これが私と数の子との出会いでした。

大人になってからは別に食べれないということはないんですが……別にもう大丈夫なんですけど、でもやっぱりいまだに「好き」というふうにはなれないのです。

数の子は、お寿司大好きの私にとっては数少ない「どうでもいいネタ」のひとつになっております。ごめんなさい。

なぜ数の子は苦いのか?

数の子は魚卵の中ではコレステロール値が比較的少ないほうです。それにEPA(エイコサペンタエン酸)の含有量も多く、率で言えば鯖や鰯といった青魚をも上回る量です。

また、魚卵と言えば痛風の原因として気になるプリン体ですが、意外にもプリン体の「極めて少ない」食品に分類されています。むしろ一部の野菜などよりも少ないのです。

実はかなり健康にも良い食品です。

って、それは良いのですが一番の疑問は……あの苦みの正体はいったい何なんだと。

これは実はまだはっきり解明されていないようです。

ただ、ひとつ考えられるのは……現状数の子は流通の際には多くの場合「塩漬け」にされています。もちろん生のままでは今のように自由に流通させることは難しいでしょうし、仮に数の子をそのまま冷凍すると激しく劣化してしまいます。ところが塩漬けにすると凍結し始める温度を下げることができるので0℃以下の温度帯でも保存、流通させることができるのです。そのおかげでかなり長期間鮮度を保つことができるわけです。

ただし、塩漬けにされた数の子を買ってくると、いわゆる「塩抜き」が必要になります。これを失敗すると味や食感がかなり損なわれてしまうのです。

ところで、「塩」と言っても食品内に存在する塩分というのはいわゆる「食塩」つまり塩化ナトリウム(NaCl)だけではありません。

数の子はもともとナトリウムだけでなくカルシウム、マグネシウム、あるいは亜鉛、鉄分、銅などのミネラルを含んでいます。これらの一部は塩化マグネシウムといった形で存在していますが、塩漬けの数の子は買って来たら「塩抜き」しなければ塩辛くて食べれられません。

で、塩抜きする際にうまく行かないと、塩化ナトリウムだけが先に抜けてしまい、塩化カルシウムとか塩化マグネシウムなどが比較的抜けが遅いために多く残ってしまう場合が考えられます。

これらは苦みを感じる成分なので(ちなみに、塩化マグネシウムというのは「にがり」の主成分)、うまく塩抜きできないと苦みの強い数の子になってしまうと。

あるいは、苦みを感じる成分にはバリン、ロイシン、プロリン、アルギニンなどのアミノ酸もありますが、いずれも数の子が多く持っている成分です。もちろん数の子は同時にアスパラギン酸とかグルタミン酸といった旨みのもとになるアミノ酸も同時に持っているのです

が、塩蔵数の子の塩抜きをする過程で苦みに通じるアミノ酸だけが多く残ってしまうか、あるいは活性化されてしまうことが苦みが出る原因である可能性もあります。

いずれにしろ、数の子のあの苦みの理由は

「戻し(塩抜き)」の失敗

にあったようです。

数の子の苦みを取る方法

考えてみると、大人になってから私が出会った数の子は、たいていほとんど苦みなんてほとんど感じないものばかりでした。

ちゃんと処理すれば……つまり戻しに失敗さえしなければ苦みが出ることはないのでしょう。

塩抜きが面倒くさい場合や、時間がない場合には初めから味付けまで済んでいる市販の味付け数の子を買ってくれば良いわけですが、自分で「塩抜き」をしようとする場合には、

・真水じゃなくて塩水で行うこと
・長時間やりすぎないこと

がポイントとなります。

塩漬けの数の子をいきなり真水に入れると、浸透圧が高すぎて表面の塩分だけが先に抜けきってしまい、表面がふにゃけてせっかくの数の子の食感が失われる上に、中心部分は塩分が多く残ってしまいます。

なので、だいたい水1リットルに対して小さじ1杯くらいの塩を溶かしたものを用います。これを「呼び塩」などと言います。

通常であれば、いったん6時間程度このようにして塩抜きをした後、数の子の表面を覆っている薄皮を剥き、水を取り替えて(また最初と同じ濃度くらいの塩水を作って)もう一度6時間程度塩抜きします。

その辺で味見をしてみて、塩加減が強すぎない程度まで抜けていれば塩抜き完了です。

それ以上残っている塩分を完全に抜き去ろうとすると、次第にふにゃけてくるし強い苦みが発生します。少し残っているくらいでちょうど良いと思ったほうが良いと思います。

苦みが出てしまった場合には、最初より少し濃い塩水を作って塩分を戻してやると多少苦みが消えると言われています。しかしこれは応急処置ですね。

要はあんまり戻し過ぎないことです。もう少し、しょっぱいかな? ……という程度で塩抜きはやめておいたほうが賢明でしょう。結局その後また味付けするわけなので、そこで調節したほうがいいです。

ああ、最初のトラウマがなければ、私も数の子大好きになっていたでしょうに……残念です。